大雪の中、刷り上がったばかりの共著が届きました。
三人の編者のただならぬ心意気が伝わる一冊です。
そもそも、この書の企画の発端は2022年春のシンポジウムでした。
シンポジウムは科研基盤Bの成果発表の場でもあったのですが、6名のメンバーだけではなく、中国からも気鋭の若手研究者をお迎えするなど、充実のプログラムとなりました。
また、当日コメンテーターをつとめてくださった田崎直美さんや、参加してくださった椎名亮輔さんなど、このシンポジウムで広がったつながりが元になり、執筆陣が決まりました。
そして「科研3年間の最終年度には刊行しましょう」となってからの猛烈な追い込みが始まり、夏には原稿提出、秋以降は編集というよりもプロの校閲者のような細かなチェックが全体に施されました。
これほど緻密な編集過程を経ての共著は経験がありません。
さらに、編者の榎本泰子さんから「表紙を出版社に任せず、われわれの意図を汲んだデザイナーに装丁を依頼したい」という意向が示されました。シンポジウムのフライヤーを制作した佐々木優氏に装丁をお願いしました。
表紙がいかに大切かは私も十二分に理解していましたので、大いに張り切って表紙用の図版をセレクトし、結果、フランス租界の優雅さや儚さを映し出すカバーが生まれました。
と自画自賛(冷汗)なのですが、自分自身の大いなる反省として、初稿の詰めが甘くご迷惑をかけたこと、編者の森本頼子さんに細かなエビデンスの不整合を指摘されたことは今後の教訓としたいと思っています。
シャルル・グロボワ という一筋縄ではいかない教育者、音楽評論家の追求はこれからも続くとは思いますが、今回の論文はこれまでのグロボワ 研究のひとまずの集大成です。そして使用した資料は中国語、英語を除くと共同研究という枠組みでしか解読できなかったものです。
3年の科研研究の前には2011年からの助走がありました。
多くの共同研究者、協力者に恵まれ、結実した共著は、単著とは一味違う重みと輝きがあるとしみじみ感じています(あれれ?また自画自賛!どうしても手が勝手にそっちの方向へ!)。
「上海フランス租界への招待 — 日仏中三か国の文化交流」勉誠出版。
目次は次の通りです。音楽学からも5名が執筆陣に。そのほか外交史、美術史、比較文化、文学など多彩な執筆陣が力作をお寄せくださいました。(井口)
はじめに 上海フランス租界への招待 榎本泰子
「東洋のパリ」上海フランス租界地図
第Ⅰ部 上海で花開いたフランス文化
フランス租界を芸術の都に――シャルル・グロボワが築こうとした東西の架け橋 井口淳子
上海のフランス語ラジオ放送(FFZ)と音楽――グロボワ制作の芸術音楽番組を中心に 森本頼子
一九三〇年代フランスのラジオで放送された芸術音楽――フランス音楽の扱いにみる本国と上海の特質 平野貴俊
文化政策としてのフランス音楽――上海フランス租界の時代を中心に 田崎直美
グロボワ音楽評論抄 関デルフィン笑子(翻訳) 森本頼子(解題・訳注)
【コラム】グロボワをもとめて――上海からブールジュへの旅、一九八七年〜二〇二二年 井口淳子
【コラム】私がグロボワに「触れる」まで――コロナ禍を超えて 藤野志織
第Ⅱ部 異文化交流の舞台としての上海
上海租界のフランス語新聞Le Journal de Shanghai (1927-1945) ──文化欄を支えた多国籍の執筆陣 趙怡
上海で育まれた友情――クロード・リヴィエールとテイヤール・ド・シャルダンの出会い 馬場智也
上海アートクラブとアンドレ・クロドの仲間たち 二村淳子
黒石公寓(ブラックストーン・アパートメント)をめぐる物語 蔣傑(翻訳:和田亜矢子)
オーロラ大学におけるフランス語教育と新文学の人材育成 任軼(翻訳:和田亜矢子)
【エッセイ】伝説のピアニスト上海失踪の謎 椎名亮輔
【コラム】上海フランス租界の光と影 藤田拓之
第Ⅲ部 欧州と極東を結ぶイマージュ
文明か国家か――駐日フランス大使ポール・クローデルの中国観 学谷亮
在外教育・文化機関におけるフランス語蔵書の意味を考える――上海アリアンス・フランセーズと関西日仏学館を例に 藤野志織
パリ・上海・東京、三都をつないだフランス語図書 野澤丈二
芥川龍之介と「彼」の上海の夜 榎本泰子
上海フランス租界関連年表
本書の元になったシンポジウムのフライヤー