ようこそ井口淳子研究室へ(NEW)

民族音楽学、音楽学研究者。近刊は「送別の餃子:中国都市と農村肖像画」jiguchi@daion.ac.jp

不徹寺の思い出

昨日の新聞に不徹寺と出ていて、まさか、あの尼寺?と訝しく思いながら読み進めても、どうにも私の中の不徹庵(と呼んでいた)と一致しないのです。そこで実家の母に連絡したところ、やはり近所の尼寺のことでした。
幼少の頃、この小さな尼寺に「ちゃもとさん」(こどもだから漢字がわからない)という禅僧が住んでおられて、半ば自給自足の清貧生活を送っておられました。時々、栄養補給に我が家にみえて、すき焼きなどを食すると最後のお椀までお湯で濯がれていて、禅宗流の食事作法に見入ったものです。
この尼寺のすぐ近くに親寺?の龍門寺(りょうもんじ)という大きな禅寺があり、そこの住職もご自身の食べるものはほとんど寺の畑で作り、かなりの偏屈ものとして村人に恐れられていました。
村の中に寺がたくさんあり、その中には世俗とは一線を画した僧侶がおられたこと、今となっては誇らしく感じます。
ちなみに郷里の和菓子店では、この寺の元禄時代の尼僧、田ステ(捨)女の俳句、「雪の朝、二のじ二のじの下駄のあと」をテーマにしたお菓子を売っています。
時が過ぎ、この小さな尼寺は、女性の駆け込み寺としてメディアにも何度も取り上げられているのですね。
 

朝日新聞 2023年3月4日